(イカロス出版、2011年)
☆ちょっとうらやましい「13番ガイド」
2016年9月現在確認できる範囲内では最も新しい、全盛期の都電に関する鉄道ムック本です。志村線に関する記述の問題点に関しては既に指摘したため割愛します。志村坂下停留場の写真や路面電車の歴史概説の原稿など、「懐かしい風景で振り返る東京都電」からの流用も見受けられました。
この本でも笹目史郎さんのご活躍が光ります。「思い出の13系統」は、新宿駅から岩本町まで停留場順に写真を並べ、当時の印象やその後の変化についてコメントをつける“線形”のアプローチが取られています。諸先輩方の都電本はほとんどが「江戸名所図会」的な“点を集める”手法で写真を紹介していましたが、それではある系統が始発から終点までどのような感じで走っていたか、後世の人はなかなかイメージできません。その問題点を見事に解決しています。本としてあまり目立たないページに置かれて、写真も小さ目ですが、有名どころは類書でほぼ出揃ってきた段階に達しているのですから、この種の企画こそメインで取り上げていただきたかったです。志村線についてもこのアプローチで解説する企画があればよいのですが、当時停留場順という観点から観察・記録した地元の人はおそらくいらっしゃらないでしょう。このブログでも意識しましたが、私には当時の写真を使う権利が全くないという弱点をカバーしきれません。その意味で、少しうらやましい企画でもありました。
万世橋の写真には国際興業バスが写っています。昔の都電写真では国際興業バスが都心まで乗り入れている姿が結構認められます。ある本では江戸川橋の写真に登場していて驚かされましたが、それは私も一度父に乗せてもらった東京駅北口-常盤台教会の104(後に東50)系統でした。江戸川橋を通っていたことは認識していませんでした。しかし万世橋を通る系統はあったのでしょうか。
他には都電備品コレクターの紹介、1972年(昭和47年)11月の江東地区路線撤去までの2ヶ月間に残存停留場全てで写真撮影した方の記録などが見どころです。都電備品コレクターさんの紹介記事で、系統板の「黒」は実際には濃紺色だったことがきれいな写真で確認できました。系統板は人間ひとり分の横幅くらいの大きさがあります。よく考えれば当然それくらい大きくなくては視認できませんが、写真ではどうしても過小評価してしまいます。そんな錯覚の心理についても気づかせてくれました。